2014年11月某日。建物の中を見せていただけることになった。

想像していたより遥かに天井は高く、一面の窓から差し込む光で建物内はかなり明るかった。

長い間使用されていなかったこともあり、改修が必要な部分もあったが、建物が持っている本質的な雰囲気は十分残っていた。

「ここにはソファを置こう、ここは壁を作ったらいいかな・・・」

想像が現実に変わるスタートライン。手直しをすれば理想の空間になると確信した。

建物の一室の天井付近に局舎の古い写真が飾られていた。

今よりも立派な塀に囲まれた当時の郵便局は間違いなくこの地域の中心だったはずだ。この場所に手紙を託す人々のことを想像した時、本当に大切な気持ちを思いだした気がした。

手紙を書き、何度も見直して、切手を貼って、郵便局に持って行く。それはとてもアナログな行為だからこそ気持ちがその“モノ”に宿るような気がする。汗だくで木を削って家具に魂を込めるようなアナログで多少むさ苦しいくらいの方が、絶対に心が込もるんだと思う。

手作りのケーキ。手編みのマフラー。

便利な時代になったからなのか分からないけれど、届ける人のことを思いながら何かを作るという大事なことを僕は忘れていたような気がする。

「この場所なら切手を貼るように特別な想いを込めた家具造りができそうだ。」

帰り際、郵便局を改めて眺めた時そう思った。

そして屋号は「切手(スタンプ)」に決めた。

僕は帰ったら山のようにあるであろうやるべきことをぼんやりと想像しながら、今までに味わったことのない未知の希望と未知の不安が入り混じる不思議な気分で帰路に着いた。

おわり

 

乱文お見苦しい点が多々あったかと思いますが最後まで読んでくださった方、誠にありがとうございました。全5話の構成ながら、非常に短く、これなら1話で全部書けたんじゃないかと突っ込まれそうな内容になってしまいましたが、僕としては少しずつ当時を思い出しながら書けたことで気持ちの整理をする良い時間になりました。もっと掘り下げればエピソードや人物など書きたい内容もあるはずなのですが、いかんせんそんな文才も構成スキルも持たない自分ですので、こんなもので精一杯です。

普段書き慣れない文章も表に出すことで初めて人に伝わります。言葉も同じです。僕にとっての表現手段は家具デザイン、空間デザインなのですが、それを伝えるためには必ず言葉が必要になります。

自分の想いを伝えるための修行だと思って、苦手な文章表現ですが始めたからには続けていこうと思います。